瓦屋さんの日常 棟工事(湿式)

2024年3月8日

瓦葺き作業の工程は大きく分けて

「①瓦をはぐって屋根下地を作る(リフォームのみ)」

「②下葺き材を張る」

「③瓦桟を取り付け墨付けをする」

「④瓦を屋根に上げ葺く」

「⑤棟や葺き止めを施工する」の5つ(新築は①除く 棟部メンテナンスは⑤のみ)です。

今回は「⑤の棟工事」について紹介したいと思います。「棟の積み直し工事」や「屋根の葺き替え工事」でも、内容は同じです。関連する説明を「弊社HP2022年8月24日付ブログ」(棟土と白華現象)及び「実績⑥」でも触れています。

「棟部」の施工方法は「大筋は共通」ですが、細かい部分は「会社や職人さんによってバラバラ」です。現場では「みんなの意思の疎通」が大事ですね!時には、お互いぶつかり合って白熱する事も…

別の部分でも触れていますが、瓦の業界団体である「全日本瓦工事業連盟」が「ガイドライン工法」として「屋根瓦の施工方法を様々な部分で定め「法令化」されています。

今回は「棟土」や「のし瓦」を使用する「湿式・しっしき」と呼んでいる工法を紹介します。

「瓦桟の施工」の際に「棟部」に「芯木」を取り付ける「棟金具」を施工します。開口は「小屋裏との換気」のために取り付ける「棟換気部材」の為の開口で、リフォーム案件の「結露対策」で「棟を解体して施工」する場合もあります。

今回紹介している案件は「新築」ですが「リフォーム」の場合は「屋根下地」や「瓦下地(瓦桟)」の補強や交換が必要になります。

「棟換気」は、必要な案件のみの施工です

「瓦葺き」を終え、一番上の瓦の下に「棟換気(オレンジ)」と「まくら(緑色)」と呼ぶ瓦の勾配を調整する「パッキン」を取り付けます。

今回は「屋根の縦の寸法が合わなかった」ので「はみ出した分を切断して緊結(黄色)」します。この仕様を「半端瓦」「はんきり」と呼んでおり「棟の積み直し」等で「瓦の開口寸法(赤色)が大きすぎる場合」は「切り直し」です。ここまでの作業を「棟の下の瓦締め直し」と呼んでいます。

瓦寸法と屋根下地がマッチして「棟部」での瓦の加工が必要無い場合は「まもの」と呼んでいます。

「半端瓦」には「釘孔」がないので「ドリル」で孔をあけて「釘」でしっかり緊結(ピンク色)していますね!

瓦の半月状の隙間を塞ぐ素焼き状の瓦を「面戸・めんど(黄色)」と呼んでいます。内部に「毛細管現象による雨水の吸い上げ」を防ぐ為の「瓦のかけら・ガラ(緑色)」を隙間なく入れます。

余談ですが、石垣の内部にも水はけを良くする工夫として細かな石(緑色)「栗石・ぐりいし」が入っており内部の盛り土、外部の「築石・つきいし」(オレンジ色)という3層構造になっています。

「ガラ」を入れたりしている間に「跨ぎ巴(オレンジ色)」と「鬼瓦」を「瓦ビス(黄色)」で取り付けます。

長すぎても短すぎてもダメです!

「棟部」で使用する瓦を「のし瓦」と呼び、銅線を緊結します。新入社員は最初にする作業です!「銅線を手早く、ねじって切断する」のは、なかなかコツが要ります。「瓦葺きが終わってから、棟を積むための準備作業まで」を現場では、単純に「段取り」と呼んでおり「棟工事の中間点」です。

「漆喰」を塗る際に「小舞」がずれないように片方の手で押さえながら塗るのがコツです。

「金具」に「芯木(赤色)」を取り付け「棟土(黄色)(以下なんばん)」を入れて「棟」の土台を作ります。「土台」の上に「小舞(緑色)」という板を乗せ、適切な位置で水平にします。その後「面戸」に「漆喰」を塗っていきます。景観上の理由から、目に触れない部位は「なんばん」目に見える部位は「漆喰」で仕上げます。

「なんばん」「漆喰」を「手早く、きれいに塗る」所が新入社員の最初の壁かもしれません。

「漆喰」を含む「棟部の施工」は、完工後の気象条件により、仕上がりが左右されるため、可能な限り適した条件の日を選ぶように心がけています。

「のし瓦」の出寸法は雨水の裏漏り防止が目的です

鬼瓦側から「のし瓦」を、軒先側へ雨水を流すための勾配(水色)と、漆喰への裏漏りを防止するための、出寸法(オレンジ色)に注意して積み始めます。「1段目がきれいにできないと、全てがうまく行きません」。

棟部の点検の際にも注意する部分です

「のし瓦」は、交互に積んでいきます。段数が高くなるほど「高い防水効果」を発揮しますが「風圧力」「地震力(横揺れ)」を受けやすくなります。

繰り返しになりますが、水はけを良くするための「のし瓦の勾配(水色)」にも注意します。「棟部」からの雨漏りの原因の多くは「のし瓦の勾配」不足による「棟土と雨水の接触による毛細管現象」です。

「のし瓦」の「ずらし寸法(オレンジ色)」と併せ、職人さんの個性が出る部分です。(弊社では約9mm)

「赤色」の部位では「のし瓦」を伝う雨が「葺いてある瓦」に堰き止められるのを防ぐため、離れている必要があります。

お互いの「のし瓦」を緊結していきます。前述した「銅線が長すぎても短すぎてもダメ」ですね!

「葺き止め」の場合は「葺き止め下地(外壁)」と「のし瓦」を、緊結します。「棟部の劣化」が進むと緊結が解け「のし瓦」が欠落します。

このような屋根(棟)の形状を「棟違い」と呼んでいます。

「2021年11月10日付ブログ(縁を切る)」「2022年11月25日付ブログ(登り取り合い)」で触れた部分です。繰り返しになりますが「雨が伝う」ので慎重に作業します。

「水色」は「伝う雨」の流れで「赤色」の突起部分を「紐」呼んでおり「伝う水」を下方へ落とします。

「緑色」部分に雨水が入り込まないように「板金部材」で、蓋をしておき「黄色」で示した開口寸法もしっかり確保していきます。

一番上の「冠瓦」を内部の「芯木」にビス止めして「鬼瓦」との隙間はコーキングで防水を確保します。「ビス」の長さは、棟の段数によって使い分けます。「冠瓦」にも「紐」がありますね。

「鬼瓦」がない側は「漆喰」で仕上げます。「漆喰」は「初めは黒いが徐々に白く(白華現象)」なります。

お客様の中には「白くなることが不安・違和感」地上から見ると「割れ」や「鬼瓦」にも見える方がいるようで、相談を頂く場合もありますが、異常ではありません。

できるだけ「冠瓦」の向きを、雨水が侵入しにくくする事を目的に「強風が吹きやすい方角」を「紐」がある側を「風下」にして施工します。(お客様に意見を求める事もあります)

積雪による負荷が予想される場合には「下がり」と呼んでいる瓦で施工する事もあります。通常は「折り返し」という部分で多く採用される瓦で、実績⑫でも紹介しています。

「強力棟工法(乾式)」と呼んでいる「冠瓦のみ」の工法では「面戸」や「ガラ入れ」を施工せず「芯木」に「ハイロール」というシールで防水を確保して「ビス(赤色)」で「冠瓦を緊結」します。

「在来工法」に比べ「経済的」で「屋根の軽量化」「ランニングコスト」に優れます

全ての「冠瓦」では「紐(黄色)」と呼んでいる突起や「水切り(緑色)」と呼んでいる溝で、雨水が横方向へ流れないように工夫しています。

強力棟の端部の仕上がりです。「瓦の葺き替え工事」で、今後、隣接する部位で、続けて施工が予想される場合、境目となる部位において、後工程が容易にできるように採用する場合もあります。

棟の積み直し工事で「在来工法」から「強力棟工法」へ仕様変更される案件も見られます。

棟部の作業のポイントとしては

災害に強い屋根作りの為に

「半端瓦」「冠瓦」の緊結方法

防水を確保するために

③のし瓦の勾配 雨水が侵入しやすい箇所への工夫と対応

に注意して施工していいます。

「棟」が完成すると、屋根工事もほぼ終わりです。今回は「大棟」について触れましたが、他の「棟」でも同じような作業になります。

「1社1社」「1人1人」違う施工方法ですが「それぞれが良心の基に全力を尽くして作業」していけば業界の未来は明るいと信じています。

日本中の職人を悩ませる「棟」について一端でもお分かり頂けたら嬉しいです。