屋根の寸法出し
6月の末から、尋常ではない暑さが続きましたね…
先日、新築の案件で、下葺き材を張りに行きました。その際に、現場監督さんとよく話題になるのは「寸法きてました?」というお話です。
分かり易く言えば「瓦の大きさに屋根の大きさを合わせる」作業です。
という事で、今日の話題は「屋根の寸法」の出し方について、和形では一番多く使用されている53Aという瓦の仕様についてお話したいと思います。
会社によって、まちまちなので、あくまで「僕の場合」という事で…
写真のような瓦を「日本瓦」「和形」と呼んでいます。
瓦の大きさの内、重なり部分を除いた目に見えている部分を「利き寸法」と呼び、JIS規格では、縦の寸法を表す「利き足(黄色)」が235mm。横の寸法を表す「利き幅(オレンジ)」が265mmと定められています。
実物は、もう少し大きく、弊社では「利き足」を236.4mm(7.8寸)「利き幅」を267mm(8.81寸)とさせて頂いています。
基本的には「縦の寸法も横の寸法も利き寸法の倍数が基本」となります。
写真は「切妻・きりつま」と呼んでいる屋根の形状です。正面から見て「縦方向(黄色)」を「梁間・はりま」「横方向(オレンジ)」を「桁行・けたゆき」なんて言い方もします。
「梁間」の勾配寸法を弊社では「登り」あるいは「流れ」と呼んでおり「登りの寸法」といった呼び方もしています。
建築の世界は、現場では「1寸=30.3mm」が、図面上では「mm」が基本。図面の上では細かい数字がびっしり。「寸」が基本なので、倍数の909mmとか3636mmなんていう数字をよく目にします。
屋根の端部の瓦は、裏漏り防止や雨水を樋に流すなどの理由で、下地よりせり出して葺いてあります。この寸法を「瓦の出寸法」と呼んでいます。「瓦の出寸法」は、会社によってまちまちですが、弊社では「日本瓦」で
左右(妻部)で使用される「袖瓦・袖瓦」で、45.45mm(1.5寸)~60.6mm(2寸)です。
軒先で使用される「軒先瓦」の出寸法は、樋金具の仕様により異なり、
樋の金具が、上打ちの場合、69.69mm(2.3寸)
その他の工法で45.45mm(1.5寸)が基本です。(F型で上打ちは基本的には無し)
軒先瓦の「出寸法」は、樋に水を流すための寸法です。
「瓦」だけでなく「庇」に見られるように、屋根も建物からせり出ています。今回紹介するのは、下地の仕上がり寸法です。
加えて、図面は平面で数字が記入してありますが、屋根は勾配になっていますので、勾配がある部分では「勾配寸法」になります。
建物の大きさに色々な「出寸法」と「勾配伸び率」を加えた寸法が屋根の大きさになりますね。
この表は、水平寸法に対する勾配の掛け率と、瓦の施工における適正な勾配寸法の表です。平面で10mの屋根で4.5寸勾配の場合、10m×1.097=10.97mになります。
瓦の仕様により、メーカーが推奨する適正な勾配寸法がありますので、着工前に確認が必要です!
「登りの寸法」は、一番上が「棟部」の場合、瓦がはみ出した時は、瓦を切る事で納める事ができますが、写真の「尻掛け」という仕様では、切る事ができないので下地の寸法を瓦に合わせる必要があります。
黄色で示した瓦の効き足寸法は「236.4mm」ですので、登りの寸法も「登りの列数×236.4mm」
詳しく言えば「軒先瓦」で、瓦の縦の全長305mmー爪の厚さ15mmー軒の出60mm=230mm(便宜上実際には236.4mmに修正)
軒先瓦を除く瓦の列数である17列×236.4mmを加えます。
そこから尻掛けの「出寸法」を引いた数字が下地の仕上がり寸法です。
尻掛けの出寸法も樋の金具の仕様によって変わり、差し引く数字は
「上打ち」で「36.36mm~45.45mm(1.2寸~1.5寸)」
「その他」で「15.15mm(5分)」です。
今回の案件では、(登りの列数18枚×236.4mm)ー尻掛けの出40mm=4215.2→4220mm(樋金具上打ち)
数字は、細かいと現場では大変なので、区切りの良い数字に修正します。
繰り返しになりますが、軒の出寸法は、樋の金具の仕様によって、変わるので、事前の仕様の確認が大切です。
写真のように、軒先から、さらに突き出た片流れ状の屋根を「縋る・すがる」屋根と呼んでいます。(黄色)
下地の桁行寸法は赤色で示した「すがる」部分を先に計算します。今回の「すがる屋根」の場合…
瓦の幅が21列ありますので(21列×利き幅267mm)-60.6mm=5546.64mmといった計算になります。端数は切り上げて、実際には5550mmですね。
黄色で示した登りの寸法は、6列あるので、単純に6列×利き足236.4mm=1418.4mm 実際には1420mmですね。
オレンジ色で示した左右の続きの屋根の幅寸法は単純に、利き幅267mmの倍数となります。(やむを得ない事情があれば調整可能です)
縋るとは、本体の屋根に「すがっている」という意味です。=しがみついている という意味ですね
写真のような部分も、同じ計算式で、赤色で示した右側の屋根の幅が26列あるので(26列×利き幅267mm)ー瓦の出60.6mm=6881.4mmです。端数は省略して6880mm。
黄色で示した左側は13列あるので、オレンジ色の線を基準に13列×利き幅267mm=3471mm→3470mmです。
このような屋根を「入母屋・いりもや」と呼んでいます。
隅部の先端から黄色で示した「袖瓦」の下地の延長線にあたる部分までの幅寸法(赤色)が大事で、こちらも働き幅の倍数です。写真だと、5列×利き幅267mm=1335mmです。
「入母屋」や「寄棟」といった形状の屋根では、調整がとても難しい場合があるので、その場合は、2022年8月2日付ブログ「続・屋根の寸法出し」で紹介する「幅調整瓦」の出番となります。(リフォームの案件など)
写真のような瓦を「F型」と呼んでいます。
F型の「利き幅」はメーカーによって異なり303mm~306mmが一般的です。
屋根の左右の端部では雨水を流すための「水切り金具」と「袖瓦」の下地となる「角材(垂木)」を取り付けます。
弊社では「角材」の内側の幅寸法を「内幅」外側の寸法を「外幅」と表現しています。
「垂木」に雨水が伝うのを防ぐために「水切り金具」と「瓦」は、離して葺く必要があるので、余裕のある寸法が必要です。
「内幅」は黄色で示した利き幅に、赤色で示した「アンダーラップ」と呼んでいる雨水の通り道の部分の幅を加えた寸法です。「内幅」に「角材の幅」を加えると「外幅」となります。
計算式は(瓦の列数×306mm)+40mm(アンダーラップの幅)=内幅です。前述の通り、金具と瓦を離して葺きたいので、余裕を持った寸法をお願いしています。(アンダーラップを45mmに、利き幅を1枚306.5mmで計算する等)
「袖瓦」が、カバーできる範囲であれば多少の幅の調整が可能なので、端数は切り上げてお願いしています。
懸念がある場合は、追加で工事を対応します。
「すがる屋根」でも黄色で示した、幅の寸法は(瓦の列10枚×303mm~306mm)+(アンダーラップ40mm)=内寸です。
両端部の垂木の幅を加えると「外寸」になります。「すがる屋根の続き」は単純に利き幅の倍数です。
赤色で示した登り寸法は、次でも触れますが276mm~286mmの間の倍数です。
F型の「登りの寸法」は、利き足(写真の仕様では280mm)の倍数です。
F型は276mm~286mmの間で利き足を調整する事ができます。屋根に合った計算を心がけますが、勾配が緩い場合は、逆水対策の為「利き足が小さい=瓦の重なりが多い」方が理想的です。
瓦の縦の全長は350mm ツメの厚さ15mmです。
詳しく言えば、軒先瓦で(縦寸350mm-軒の出(オレンジ)45mm)-爪の厚さ15mm=290mm
瓦葺き部分(桟瓦280mm×列数)です。実際の施工は軒先瓦も280mmで大丈夫なので、280mmの倍数でお願いしています。(黄色の寸法)
棟際では「瓦のツメ」や「換気口」などの寸法があるので少し余裕を見た数字でお願いしておきます。
どんな瓦でも「幅」「登り」を問わず、屋根下地の寸法は「利き寸法」の倍数が基本になります。
僕が図面を頂いて、寸法を出すまでの過程を少しお話させて頂きました。なるべく元の設計図に合わせるような「寸法出し」を心がけていますが、お客様と設計士さんの意図を感じ取る事が大切ですね!
寸法が合わない場合は、工夫して合わせる事もできますが、やっぱり瓦の大きさが揃っている方が性能を発揮でき、美しいですよね!?(瓦の斜めのラインが揃いません)
相手が焼き物という事で、その都度、寸法が違ったりして、困る時もありますが、お客様に最高の仕上がりをお届けするために一丸となって頑張っています!
今回は(も?)とってもマニアックなお話となりました。屋根を美しく見せるために、みんなが協力し合っている事をお伝えできれば嬉しいです!