大切なバックアップ

2024年11月9日

既存の瓦を再使用する工事を「葺き直し」新調する場合は「葺き替え」と区別しています。

一見,普通の屋根に見えますが、雨漏りがするとの事で、点検させて頂きました。

瓦割れや、棟の緩みなどの「通常の天候で雨漏り」になりそうな原因の特定には至らず、既存の瓦を再使用して「葺き直し」をする事になりました。工事内容は、既存の瓦を再使用する以外は、新しい瓦に交換する「葺き替え」と変わらないです。

こちらは他の案件です

瓦の下の下葺き材です。濡れていますね

瓦屋根は「瓦」「勾配」「下葺き材」の3つの働きで雨漏りを防いでおり、点検で確認します。

「瓦」は割れるまで「勾配」は下地の落ち込みが発生するまで「下葺き材」は破れるまで大丈夫です。

僕は「3つの働きの、どの部分が問題なのか?」という視点からプランを提案しています。

「下地の落ち込み」による雨漏りについては2021年2月17日付ブログ「雨漏り点検・瓦の裏側」で紹介しています。

下葺き材をカッターで切断した際のわずかな傷も「裂け」の原因になる事があるので慎重に作業します

下葺き材は、瓦のバックアップとして「突発的に侵入した雨水の侵入を防ぐ役割」がありますが、この案件では、裂けています。水が下葺き材の上を流れるだけでは雨漏りは発生しませんが、穴が開くと内部まで侵入します。

この案件の下葺きも「フエルト」です

「葺き直し工事」は「下地」に問題が無ければ「下葺き材」を張り直す工程から着工します。2021年3月11日付のブログ「瓦の大きな分類」でも、触れましたが、銅線で緊結する「49判瓦」は「下地」及び「下葺き材」に直接、瓦が触れるので劣化が早い傾向があります。

又、瓦は焼き物特有の「ねじれ」から生じる隙間から、雨が突発的に吹き込んだり、瓦の上を流れる雨が侵入したりする事があります。現在では「製造」「施工」共に技術も上がって問題ありません。

既存の瓦を再使用する際は、隙間を少なくするために、目視で「ねじれ」を確認して葺き、使用不可の瓦は交換します。(新しい瓦でも美しく仕上げるための目視確認が必要です)

今回は、既存の瓦を再使用する仕様なので、隙間から雨が吹き込む前提の作業です。突発的に侵入した雨水は下葺き材で対応する工事です。

写真の下葺き材は、左の黒(棟側)が既存の下葺き材(フエルト)。右(軒側)が、新しく施工した下葺き材で、改質アスファルト系(グレー)と、高分子系(ブラウン)を二重に張って施工しました。

どちらも、下葺き材として、素晴らしい性能なんですけど…

「東和ルーフ」と呼んでいます

高分子系は、主にペットボトル等のリサイクル材が原料です。長所として、とても軽い事と、表面に突起物が付いているので、瓦を緊結するための「桟木」を施工すると下地との間に空間ができる優れもの。

赤色部分が突起です

この空間が、侵入した雨水の堰き止めを防ぐと共に、49判瓦を緊結する際の「桟木の下に銅線を通す」のに便利。短所は、紫外線に弱い事です。

下葺き材は、タッカーと呼んでいるホッチキスの針のような物で緊結していきます。メーカー指定の方法で取り付けるので安心ですが、経験も加味しながら工夫しています。(雨水の通り道は張り増しする等)

桟木のジョイント部分は補強します。瓦桟に銅線を通す為、釘は最後まで打ち込みません

「高分子系下葺き材」に「桟木」を施工した所です。「下地」の下に空間ができる仕組みが分かると思います。

高分子系は、まだできてから年月が経っていないので、まだ実績が不足しがち…。なので、弊社では、案件の性格によって、使い分けています。

テープの代わりに「溝付き桟木」という商品もありますが「桟木」の強度に不安がある為、弊社では採用していません。

下地がザラザラなので屋根の上でも滑りにくいです

改質系は、合成繊維や不織布の原紙に、合成ゴムや合成樹脂を施し、アスファルトや鉱物の粉を被膜した製品で、長所として、釘穴シール性(釘の穴が閉まる性能)に優れています。短所は「桟木」の空間を作るテープの施工が追加されて高コストな事です。(空間を作らずそのまま施工している業者さんも見かけますが)

勾配が急であるほど、雨水のキレが良くなりますが、メンテンス作業が困難になります

改質系下葺き材での瓦下地です。繰り返しになりますが、下葺き材に突起物がないので、テープを張って、下地との空間を作ります。高分子系に比べ材料費や手間がかかりますが、長い実績があるので安心です。

テープを施工しない時は墨付けで「たるき」の目印にします

こちらは、遮熱機能付きの下葺き材です。テープは「たるき」(野地板を支える角材)の、目印にもなります。瓦桟を緊結する釘は「たるき」に打ち込むので、テープの位置はとても大事です。

「改質系」を張った上に「遮熱機能付き下葺き材」を張っています。

下葺き材は、二重に張る事もあります。

下葺き材からは対応せずに、瓦葺き部分だけで対応する事例を2023年7月25日付ブログ「瓦の締め直し」でも紹介しています。

「のし葺き」を生業とされる職人さんもいました

かつては「小舞・こまい」と呼んでいる板に「のし葺き」と呼んでいる「木の薄板」を張り付けるのが一般的でした。

流通が不便な時代では、できるだけ地産地消だったんだと思います。

「杉皮・すぎかわ」と呼んでいる、その名の通り杉の木の表皮を取り付ける事もありました。

「のし葺き」「杉皮」は、今では新しく施工されませんが、小屋裏と自然な空気の循環があり、建物に最適な環境を作る優れた下葺き材でした。

屋根を下から見た写真で、水色が水の流れる方向です。

横の角材である「母屋(オレンジ色)で支えられた、縦の角材が「たるき(黄色)」です。釘を「たるき」から外した場合は、表面の穴をテープで塞ぎます。下葺き材と(野地板の釘)瓦葺き(瓦桟の釘)の着工前点検は欠かせません

至誠に悖るなかりしか(誠実さや真心、人の道に背く事は無かったか?)です。

瓦の下は見えないけれど、どれが正解か分からない職人のこだわりの世界。仕事仲間との会話も、自然と、仕事の話になっていきます。妥協を許さない作業とアイディアで皆さんに喜んで頂けるよう頑張ります!

今回は(も?)マニアックな話でした。