瓦葺き作業の工程は大きく分けて
「①瓦をはぐって屋根下地を作る(リフォームのみ)」
「②下葺き材を張る」
「③瓦桟を取り付け墨付けをする」
「④瓦を屋根に上げ葺く」
「⑤棟や葺き止めを施工する」の5つ(新築は①除く 棟部メンテナンスは⑤のみ)です。
今回は「⑤の棟工事」について紹介したいと思います。「棟の積み直し工事」や「屋根の葺き替え工事」でも、内容は同じです。関連する説明を「弊社HP2022年8月24日付ブログ」(棟土と白華現象)及び「実績⑥」でも触れています。
「棟部」の施工方法は「大筋は共通」ですが、細かい部分は「会社や職人さんによってバラバラ」です。現場では「みんなの意思の疎通」が大事ですね!時には、お互いぶつかり合って白熱する事も…
別の部分でも触れていますが、瓦の業界団体である「全日本瓦工事業連盟」が「ガイドライン工法」として「屋根瓦の施工方法を様々な部分で定め「法令化」されています。
今回は「棟土」や「のし瓦」を使用する「湿式・しっしき」と呼んでいる工法を紹介します。
「瓦桟の施工」の際に「棟部」に「芯木」を取り付ける「棟金具」を施工します
。開口は「小屋裏との換気」のために取り付ける「棟換気部材」の為の開口で、リフォーム案件の「結露対策」で「棟を解体して施工」する場合もあります。
今回紹介している案件は「新築」ですが「リフォーム」の場合は「屋根下地」や「瓦下地(瓦桟)」の補強や交換が必要になります。
「瓦葺き」を終え「一番上の瓦(半端瓦)」の下に「棟換気」と「まくら」と呼ぶ瓦の勾配を調整する「パッキン」を取り付けます。
「半端瓦」の適切な勾配の調整は、瓦の表面の雨水を軒先方向に流すために重要な作業になります。
今回は「屋根の縦の寸法が合わなかった」ので、瓦を切断する作業が発生しました。
この仕様を「半端瓦」「はんきり」と呼んでおり、メンテナンス工事等で「半端瓦の開口寸法(赤色)が大きすぎる場合」は「切り直し」です。ここまでの作業を「棟の下の瓦締め直し」と呼んでいます。
瓦寸法と屋根下地がマッチして「棟部」での瓦の切断が必要無い場合は「まもの」と呼んでいます。
「半端瓦」には「釘孔」がないので「ドリル」で孔をあけて「釘」でしっかり緊結していますね!
斜め方向の「棟部」を「隅棟・すみむね」と呼んでいます。
直下の三角形に加工された瓦を「勝手瓦・かってかわら」と呼んでいて、勾配は主に「棟土」を使用して調整します。
金具に、後工程で「冠瓦」を緊結する「芯木」を取り付けます。
「芯木」は「木製」を使用している事例も多く見られますが、弊社は「人口樹脂製」を使用する事により
①工場や家庭から発生する再生プラスチックを使用する事による環境配慮
②木製のような腐食がなく、品質も均一である事による耐久性アップ
③70度以上の耐熱性能(粘土瓦の表面温度は65°C 芯木温度56°Cに達する事が試験で判明しています)
④耐風性能に優れている(高さ10mで風速40m 耐震(1G 震度6レベルに対応)
を目指しています。
「勝手瓦」もしっかりと「クリップ」を使用して固定します。
「防水」「耐震」「耐風」の為には土台が重要です。
瓦の半月状の隙間を塞ぐ素焼き状の瓦を「面戸・めんど」と呼んでいます。内部に「毛細管現象による雨水の吸い上げ」を防ぐ為の「瓦のかけら・ガラ(緑色)」を隙間なく入れます。
余談ですが、石垣の内部にも水はけを良くする工夫として細かな石「栗石・ぐりいし」が入っており内部の盛り土、外部の「築石・つきいし」という3層構造になっています。
「ガラ」を入れたりしている間に「跨ぎ巴」を「瓦ビス」で取り付けます。
地表から見る事を想定して先端を心持ち、少し低くするように取り付けます。
「跨ぎ巴」の内部は「シール」で、防水を確保します。
「半端瓦」の寸法が異なっていますね。
手前側が「まもの」奥側が「はんきり」です。
半端瓦の寸法が異なる場合、黄色で示した鬼瓦の土台の高さが左右で異なってしまいます。
そのまま「鬼瓦」を取り付けると傾いてしまうので、土台を入れて左右の高さを合わせます。
「芯木」に「鬼瓦」を緊結して固定します。
「鬼瓦」は地表から見るので、少し前側(左側)へ傾けて取り付けます。
「鬼瓦」は取り付ける前に「跨ぎ巴」の形に合わせて、加工します。
瓦を加工して切り合わせる作業を「合端(あいば)」と呼んでいます。
「棟部」で積み重ねて使用する瓦を「のし瓦」と呼び、銅線を緊結します。新入社員は最初にする作業です!
「銅線を手早く、ねじって切断する」のは、なかなかコツが要ります。
「瓦葺きが終わってから、棟を積むための準備作業まで」を現場では、単純に「段取り」と呼んでおり「棟工事の中間点」です。
面戸の内部に「棟土(以下なんばん)」を入れて「棟」の土台を作ります。
「土台」の上に「小舞」という板を乗せ、適切な位置で水平にします。
その後「面戸」に「漆喰」を塗っていきます。景観上の理由から
目に触れない部位は「なんばん」
目に触れる部位は「漆喰」で仕上げます。
「なんばん」「漆喰」を「手早く、きれいに塗る」所が新入社員の最初の壁かもしれません。
「棟部の施工・出来栄え」は、作業日と完工後の気象条件にも大きく左右されるため、慎重に進めています。
鬼瓦側から「のし瓦」を、軒先側へ雨水を流すための「勾配」と、漆喰への裏漏りを防止するための「出寸法」に注意して積み始めます。「1段目がきれいにできないと、全てがうまく行きません」
「のし瓦」を、納得のできる角度にするために、棟土の入れ方にもこだわりがあります。
矢印の隙間部分は毛細管現象を防ぐ最重要部分です。
「のし瓦」は、交互に積んでいきます。段数が高くなるほど「高い防水効果」を発揮しますが、重心が高くなり「風圧力」「地震力(横揺れ)」を受けやすくなります。
繰り返しになりますが、水はけを良くするための「のし瓦の勾配(水色)」にも注意します。「棟部」からの雨漏りの原因の多くは「のし瓦の勾配」不足による「棟土と雨水の接触による毛細管現象」です。
「のし瓦」の「ずらし寸法(オレンジ色)」と併せ、職人さんの個性が出る部分です。(弊社では約9mm)
「赤色」の部位では「のし瓦」を横方向に伝う雨が「葺いてある瓦」に堰き止められるのを防ぐため、離れている必要があります。
お互いの「のし瓦」を緊結していきます。前述した「銅線が長すぎても短すぎてもダメ」ですね!
「葺き止め」の場合は「葺き止め下地(外壁)」と「のし瓦」を、緊結します。「棟部の劣化」が進むと緊結が解け「のし瓦」が欠落します。
「2021年11月10日付ブログ(縁を切る)」「2022年11月25日付ブログ(登り取り合い)」で触れた部分です。繰り返しになりますが「雨が伝う」ので慎重に作業します。
「取り合い」から雨水が入り込まないように「板金部材」で、蓋をしておき「開口寸法」もしっかり確保していきます。
一番上の「冠瓦」を内部の「芯木」にビス止めして「鬼瓦」との隙間はコーキングで防水を確保します。「ビス」の長さは、棟の段数によって使い分けます。「冠瓦」にも「紐」がありますね。
「鬼瓦」がない側は「漆喰」で仕上げます。「漆喰」は「初めは黒いが徐々に白く(白華現象)」なります。
お客様の中には「白くなることが不安・違和感」地上から見ると「割れ」や「鬼瓦」にも見える方がいるようで、相談を頂く場合もありますが、異常ではありません。
できるだけ「冠瓦」の向きを、雨水が侵入しにくくする事を目的に「強風が吹きやすい方角」を「紐」がある側を「風下」にして施工します。(お客様に意見を求める事もあります)
積雪による負荷が予想される場合には「下がり」と呼んでいる瓦で施工する事もあります。
通常は「折り返し」という部分で多く採用される瓦で、実績⑫でも紹介しています。
最後に、瓦に付いた「漆喰」「なんばん」を綺麗に拭き取ります。
「欠け」があればペンキでタッチアップします。
「強力棟工法(乾式)」と呼んでいる「冠瓦のみ」の工法では「面戸」や「ガラ入れ」を施工せず「芯木」に「ハイロール」というシールで防水を確保して「ビス」で「冠瓦を緊結」します。
「在来工法」に比べ「経済的」で「屋根の軽量化」「ランニングコスト」に優れます
「冠瓦」では「紐」と呼んでいる突起や「水切り」と呼んでいる溝で、雨水が横方向へ流れないように工夫しています。
強力棟の端部の仕上がりです。
「瓦の葺き替え工事」で、今後、隣接する部位で、続けて施工が予想される場合、境目となる部位において、後工程が容易にできるように採用する場合もあります。
棟の積み直し工事で「在来工法」から「強力棟工法」へ仕様変更される案件も見られます。
棟部の作業のポイントとしては、
「耐震」「耐風」の確保のために
「半端瓦」「冠瓦」の緊結方法
防水を確保するために
③のし瓦の勾配 雨水が侵入しやすい箇所への工夫と対応
に注意して施工しています。
「棟」が完成すると、屋根工事も終わりが見えてきます。
「1社1社」「1人1人」違う施工方法ですが「それぞれが良心の基に全力を尽くして作業」していけば業界の未来は明るいと信じています。
日本中の瓦職人を悩ませる「棟」について一端でもお分かり頂けたら嬉しいです。