今日は、屋根から白いものが見えるとのお声掛けを頂きまして、屋根の点検に伺いました。
そこで、今日は「棟部」の「棟土」と「白華現象」についてお話したいと思います。
「棟土」とは「棟部」の内部で使用している「粘土状の土」です。
棟部では「のし瓦」を交互に積み重ねて、雨水を流すための勾配を設けてあります。
勾配をつけるために「棟土」を使用しますが、かつては「かべどろ」と呼んでいる「山土」に「わら」「すさ」等を、混ぜ込んだ商品でしたが、20年~30年ほど前から、進化版として、主に石灰(炭酸カルシウム)を主成分とした「なんばん」という商品が主流になりました。
関連する説明を2023年1月7日付けブログ「瓦屋さんの日常 棟工事」でも触れています。
今回紹介する「白華」とは「エフロエッセンス」とも呼ばれ「なんばん」や、オレンジ色で示した「面戸瓦」部分を塞ぐ「漆喰」の表面に表れる石灰に見られる白さで、業界では「セメントのアク」とも呼ばれています。
「棟部」は「のし瓦」を交互に積み重ねた構造で、内部の「なんばん」は、色々な商品が発売されていますが基本的な仕組みは一緒です。(表面は漆喰で仕上げ)
施工の様子は、このブログの2023年1月7日付ブログ「瓦屋さんの日常」をご覧ください。
写真の汚れが今回の相談にきっかけで、正体は「鳥の糞」でした。
「なんばん」の製法は…
①石灰石を窯で900~1,000°Cで焼きます。(生(き)石灰と言います)。
②生石灰に、水を注水化合させ消化させます。
③決められた水量を化合させると生石灰が反応を起こし、発熱しながら膨張します。
④冷却後に細かく砕きふるい分けした粉末が消石灰です。
⑤袋詰めして製品にしたのが、写真の「なんばん」です。
棟に上げられた消石灰は、炭酸ガス(二酸化炭素)と反応し、水分を飛ばしながら結晶して、炭酸カルシウムに戻ります。最も安定した状態(石灰石(CaCO3)に戻るわけです。生成の過程を逆に体現した形ですね。
棟部では「白華」が原因で瓦などを汚してしまう事があります。
セメントと似ていますが、セメントは「水硬性」であるのに対し「なんばん」は「気硬性」という違いがあります。その為、施工後の天候による影響を大きく受ける事が悩みの種です。
「なんばん」の水分全てが「遊離水」であることから、セメントに対して伸縮が大きく、(水分が抜けた部分は空洞になる)瓦と隔離してしまったり、水分が継続的に表面から蒸発していく際に、瓦の表面に漏れ出して、汚したりする事も悩みの種でもあります…
屋根の上では、数カ月かけて徐々に硬化していきますね!
「なんばん」を使用した案件では、蒸発の過程で、内部の水分が表面へ移動するに伴って、石灰分も引っ張り出されることにより「白華現象」が起こります。
写真の、棟部の下の三日月形の部位(面戸瓦)から漏れ出す事が多く、今回の判断も、汚れの位置による判断になります。
尚、今回の点検では「白華現象」による、瓦の汚れと思われる部位はありませんでした。
以上の理由から「漆喰」の色も「白色」と「黒色」がありますが「黒色」も徐々に「白く」なってしまいます。
「かべどろ(緑)」です。(今でも「かべどろ」は製造されています)。「棟土」が漏れ出さないように「面戸(赤)」で、フタをしています。
現在では、前述のように「面戸」の外側に「漆喰」を施工して「棟土」の流失を防いでいます。
弊社が「かべどろ」を採用していた頃は、水を加えて柔らかく練り込んだ後にセメントを混ぜて、攪拌した後に施工しており、現在でも解体にも苦労するくらいです…(粘り気があり格段に頑丈です)
「棟部」は「左右に雨水を流す役割」があり、前述の通り「棟土」は雨水を流すための「のし瓦の勾配」を生むために使用しています。
施工当初は「赤いライン」だった棟部の頂点が、写真では左にズレています。
右側の「のし瓦」の勾配が緩くなり、横からの雨風の際に、雨水が内部に侵入する事があります。
屋根の点検の際は棟部の一番上の「冠瓦(江戸)」を取り外して「棟土」の状態を確認します。
この案件の「なんばん」は、施工後の劣化により、青色のラインまでだった「棟土」が砂状に黄色ラインまで広がっています。
棟部の断面です。
赤色部分等で「横方向からの暴風雨の際に、棟土と雨水が触れた」事により、雨水を内部へ引っ張り込む「毛細管現象(水色)」による雨漏りが発生します。
「毛細管現象」とは、乾燥タオルやティッシュ等を水に浸けると内部へ雨水が浸透していくのと同じ現象です。
黄色の冠瓦を「伏間・ふすま」「平冠・ひらかんむり」等と呼んでいます。
「棟土」の施工中の写真です。
矢印の部位で「距離」が必要です。
棟土は「のし瓦」に」勾配を取るために厚さを考えながら作業します。
棟の内部に雨水が侵入している場合は、濡れているので、点検は雨上がりが最適です。
流失が続くと、棟土が無くなり、のし瓦が緩んでいきます。
写真では、右側に傾いたことにより、雨水が内部に入っている跡が分かります。
この案件では、のし瓦の勾配と、黄色部分で示した部位で「棟土」と「冠瓦」との間に、適切な距離(間隔)が保たれて乾いています。
「棟部」が「分水嶺」を外れると様々な弊害が生じます。
繰り返しになりますが「棟部が傾く」と「棟土と雨水が接触」して雨水が侵入します。
写真では、前述の写真とは異なり、赤色部分で雨水と棟土が接触しています。
銅線の部分では棟土が流失して空洞になっていて「のし瓦」が緩む原因となっています。
「棟土が雨水と触れないようにする」「棟土の状態を適切に維持する」事は、屋根にとって大切な事です。
「棟土」は、青色で示した「緊結線」「緊結穴」からも徐々に浸透していき、水で触れる事で、少しずつ砂状に変化(劣化)していきます。
写真の案件は、晴れの日が続いた条件での点検でしたが…
雨上がりの時に点検すれば「濡れ」が確認しやすいです。
写真の案件では「冠瓦」の「緊結穴」の部分だけ濡れていました。
緊結穴にコーキングを施工するだけでも改善します。
詳しくは、弊社HP 2023年6月23日付ブログ「コーキング」で紹介しています。
中には「棟土」が流失して全体が空洞になっている案件も見かけます。
屋根の点検では瓦の「欠落」等の分かり易い部分に加えて内部の状態もしっかり確認する必要があります。
現在では、雨水の侵入を防ぎ、緊結線の劣化を無くすために仕様を問わず「冠瓦」の緊結には専用の「パッキン付きビス」を採用しています。
「棟土」の性能も飛躍的に向上し「砂状」には「なりにくく」なりました。
詳しい製品情報は、弊社HP 下部の「馬場商店」さんの、バナーをクリックして下さい!
たまに「こわ」と呼んでいる「木材」や「竹材」を使用して積んである棟も見かけます。
棟土の粘着性による強度がないので、工法としては疑問符です。
写真の案件では「のし瓦」の勾配も無いので、雨水が流れない状態ですね。
最近では「棟土」や「のし瓦」を使用しない「乾式」と呼んでいる仕様も増えてきました。
「毛細管現象」「のし瓦の緩み」「のし瓦のズレ」等の心配が無く、ランニングコストにも優れます。
点検のついでに、ペンキで瓦の欠け部分をタッチアップ。
汚れた瓦も、キズが付かないように優しく磨いて、目立たないようにしました。お客様には、屋根に気を配って頂いて、とても嬉しく思いました。